あとまわし

書く事が夢でありますように

星の王子様

 

本当に大事なものは目に見えない、
と星の王子様が言ったことを思いだした。
そうかな、本当にそうなのかな。いや、そうだよな。そうして私は眼鏡をベッドの横に置いた。おかげで視力の悪い私に世界はぼんやりとしか映ってくれなくなった。でもたいした問題でもあるまい。なにせ大事なものは目で見るのではないのだから。あるいは世界は誰の目にもぼんやりとしか映ってくれないのだから。それに、たとえはっきり見えたとしても、いったい私たちはどうやってそれを伝えあえるだろうか。


(私は「なんて美しい世界だろう」という文章を書いて家族に見せて回ったが、みな笑いながら首をかしげるだけだった)


私は隣町で済まさなければならない用事のために駅に向かった。到着した電車に乗る。ドアに寄りかかりながら窓越しに線路に敷きつめられた色の薄い小石、淡い雑草、隣の錆びた線路を見下ろす。徐々に速度を増していく電車。しだいに小石や雑草や線路は目では追えない早さに達し層をなした。層は隆起や沈降を繰り返し断層もしていたがそれがどうして起こったのかは、見続けていたのにも関わらず、今となってはよくわからない。


私はあごを上げ遠くを見た。
いつもの見慣れた街並みがゆっくりと通り過ぎていた。もっと遠くはすごくぼんやりしていた。眼鏡を外していたことも忘れていた。そのなかでずっと私の目を離さないものがあった。それが雲であったのか飛行機であったのか。かたちを変えているようであるし動いてもいたようである。それもよくわからない。


きっとそれは
近づきすぎてはだめなんだ。
時間に乗っている私たちには
目の前のものは
あっという間に過ぎ去ってしまう。


それは
遠くでぼんやりしていなきゃ駄目なんだ。
時間に乗っていても
目の前からは消えたりしない。
それはいつまでも
大きくならず小さくもならない。


それは
いつまでもぼんやりしていられるように
いつも眺めていてほしい、と
眼鏡を外した私に頼んでいた。